東京高等裁判所 昭和53年(う)217号 判決 1978年5月01日
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役八月に処する。
理由
本件控訴の趣意は、検察官小笠原貢作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、弁護人島田稔作成名義の答弁書に、それぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。
所論は、原裁判所は、昭和五二年一二月一九日、被告人が昭和五一年一〇月二七日三ッ岡喜代美所有のセカンドバツク等を窃取したとの原判示事実を認定したうえ、被告人を懲役一年に処し、刑法二五条、二五条の二を適用してこの裁判の確定した日から五年間右刑の執行を猶予し、右猶予の期間中被告人を保護観察に付した、しかしながら被告人は(1)昭和五〇年四月九日沼津簡易裁判所で窃盗罪により懲役一年に処せられ、三年間その刑の執行を猶予され、その猶予期間中保護観察に付せられ、右判決は同月二四日確定し、(2)昭和五一年一〇月二〇日右保護観察の仮解除決定がなされ、同年一一月一日右仮解除決定の効力が発生したところ、被告人は(3)右仮解除決定の効力発生前で保護観察付き執行猶予の期間中である昭和五一年一〇月二七日前記のように再び本件犯行に及んだものであるから、被告人については、同法二五条二項但書所定の再度の執行猶予の欠格事由が存在し、その刑の執行を猶予することができないのである。したがつて原判決には刑法二五条二項但書の解釈適用の誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。
そこで、記録を調査し且つ当審における事実取調の結果を総合すると、原裁判所が昭和五二年一二月一九日被告人に対して所論のような判決の言渡をなしたこと、それより前被告人が所論(1)のような保護観察付き執行猶予の判決の言渡を受け、同判決が所論の日に確定したこと、関東地方更生保護委員会が昭和五一年一〇月二〇日被告人に対する所論(1)の判決の保護観察を仮解除する旨の決定をなし、右仮解除決定が同年一一月一日被告人に告知され、同日被告人が右仮解除決定書抄本を受領し、したがつて同日右仮解除決定の効力が生じたことが認められる。
以上の事実によると、本件犯行は前記のように昭和五一年一〇月二七日行われたものであるから、右保護観察の仮解除決定の効力発生の前であつて、保護観察付執行猶予の期間中に行われたものであることが明らかである。刑法二五条の二第三項は保護観察が仮に解除されたときは、同法二五条二項但書の適用につき、その仮解除が取消されるまでの間は保護観察に付せられなかつたものと看做される旨規定するが、右規定は保護観察が仮解除されているものがその仮解除の処分が取消されるまでの間に罪を犯した場合には刑法二五条二項但書の適用が排除され、再度の執行猶予を付すことが可能となるという趣旨であると解すべきであつて、犯罪時に保護観察中であれば、本件のごとく裁判時にたとえそれが仮解除されていたとしても、再度の執行猶予は許されないものというべきである。
そうだとすると、本件については被告人に対しその刑の執行を猶予することはできないというべきである。したがつて被告人に対しその刑の執行を猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付した原判決には、刑法二五条の二第三項、二五条二項の解釈適用の誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。論旨は理由がある。
よつて、本件控除は理由があるから、刑訴法三九七条、三八〇条により原判決を破棄し、同法四〇〇条に則り、被告事件につきさらに判決する。
原判決が認定した事実に法令を適用すると、被告人の原判示所為は刑法二三五条に該当するので、その所定刑期の範囲内で、諸般の情状を考慮し、被告人を懲役八月に処し、主文のとおり判決する。